ツイッターで「推しマーベルヒーロー」というタグ1が見えたんですが、知らない人が誰を推してるとか心底どうでもいい情報ですね。マーベルのマーケティング担当だけが気にすればいいことです。
さて、誰推しとか誰が人気かって話をする上で、アメコミのキャラクターがマルチバースで生きる存在だってことを忘れちゃいけません。
MCU2の映画しか観たことない人と、マーベルパズルクエストのゲームしかやったことない人と、ディスクウォーズ・アベンジャーズのアニメしか観たことない人ではキャラクターの認識が異なるのは想像に難くないでしょう。
っていう話を小難しくまとめておきます。
言いたいことは、MCUのキャラはそのキャラクターの一側面でしかないってことです。
アメコミキャラクターのありかた
まずキャラクターありき
アメコミのキャラクター3というのは、日本の一般的なマンガのキャラクターとはちょっと異なります。
通常、日本の一般的なマンガのキャラクターは、物語ありきで生まれます。
「鬼滅の刃」というマンガ作品がまずあって、竈門炭治郎くんはその物語の主人公として位置づけられます。
一方、一般的なアメコミのキャラクターというのは、キャラクターありきです。
「放射線を帯びたクモに噛まれてスーパーパワーを手に入れたスパイダーマン」「アメリカが生み出した超人兵士のキャプテン・アメリカ」というキャラクターがまず存在し、彼らがどういう物語をつむいでいくかは決まっていません。初登場が何のシリーズであったにせよ、後にはまったく別のシリーズで活躍することができます。
単に「同じキャラクターが色んな作品に登場する」と表現すれば、充分なじみがあると思えるでしょう。いわゆる「スピンオフ」だったり、同じ作者の作品でも「世界線がつながっている」と言われるものです。
日本のマンガキャラは作者個人に属しますが、アメコミキャラは例えばマーベルという会社に属するため、幅広い「スピンオフ」ができるわけです。
記号としてのキャラクター
アメコミキャラの特殊性はもっと根本的なものです。
言ってみれば「存在自体が記号的である」ということ。
もっと噛み砕くと「細かいことが決まってないざっくりした存在である」ということ。
つまり、彼をそのキャラクターたらしめるキーの要素さえあれば、他の細かい設定は作品ごとに違ったっていい。それが前提として作られているのがアメコミキャラクターです。
そりゃそうなのです。アメコミは話を書く人も絵を描く人も、シリーズごと、エピソードごとに変わります。キャラクターを作った人が一から十まで細かい設定を決めていては、他のクリエイターの創造性が損なわれてしまいますから。4
記号としてのざっくりしたキャラクターに対して、ある作品における設定を具体化することを「キャラのインスタンス化」と呼びましょう。
コミックに登場するスパイダーマン、サム・ライミの映画に登場するスパイダーマン、アニメのアルティメット・スパイダーマンに登場するスパイダーマン、映画アベンジャーズに登場するスパイダーマン、これらはそれぞれ別インスタンスのスパイダーマンです。
マルチバースという世界観を理解していると分かりやすいですね。
各パラレルワールドに存在するスパイダーマンは、記号的なスパイダーマンを具体化した各インスタンスであるということ。
同じ名前で性質の異なるキャラクターが存在しうることは、作品内でも受け入れられています。
大勢のクリエイターがよってたかって作っていくのがアメコミのキャラクター。
変化・進歩の可能性に富んでいることがその魅力なのです。
キャラの記号を見る目と、具体的な文脈を見る目
アメコミキャラにはこういう余白の多さが前提にあるわけなので、読者の我々からしてもキャラクターをより自由に見ることができます。
つまり、「特品の作品に登場するキャラクター(=インスタンス)」としての見方と、「キャラクターそのもの(=鋳型)」としての見方の両方ができるということ。
一つの作品・世界観にしか触れていないのなら前者の見方しかできませんが、様々なメディア・作品・クリエイターに触れていくことで、後者の見方ができるようになっていくでしょう。
筆者はどっちもありますが、記号的に好きなキャラを「推しキャラ」と呼びたい感じです。
特定の作品では好き、というだけのキャラは推しとは呼ばないです5。
キャラを記号として見るということは、そのキャラのキー要素=本質を知るということ。
特定の作品におけるキャラに興味を持ったら、より抽象的なレベルでも目を向けて行ってほしいものです。
なおキー要素ってのはたいてい「オリジン」「見た目的な特徴」「能力」の三点でしょう。
このブログでキャラクターを紹介するときもこの三点は欠かさないようにしています。
たとえばスパイダーマンなら
- オリジン:放射線を帯びたクモに噛まれた、叔父を殺されてヒーローになると決意した
- 見た目:赤と青の蜘蛛の巣模様スーツ
- 能力:ウェブを飛ばす、壁にはりつく、スパイダーセンス
たとえばアイアンマンなら
- オリジン:テロリストに捕まって自作したアイアンスーツを着て戦い始めた
- 見た目:赤と黄色のアイアンスーツ、いろんなモデルがある
- 能力:スーツによる飛行とブラスト、エンジニアリング
これらを満たしていれば(一部を満たしていなくても)、歳や性別や国籍がなんであろうと「スパイダーマン」や「アイアンマン」だと言えるわけです。
オリジンはそのキャラクターの動機を決定づける重要な要素であることが多いですが、作品によって変わりやすいところでもありますね。
実写映画化も一つのインスタンス化
筆者はマーベルキャラクターの「実写映画」にあまり興味がありません6。
実写化、というのは記号としてのキャラクターを具体的な文脈に入れる行為の極致なんですよね。
コミックのキャラクターは余白が非常に多いです。顔つきも服装も体形もしゃべり方も決まっていない(クリエイターによって異なる)し、今までどんな経験をしてきたのかもふわっとしています(決まっていなかったり後付けられたり)。
それが実写化すると一気に余白はなくなります。
第一に見た目・声・しゃべり方・仕草・身のこなしが固定される。
第二に、経歴や他のキャラクターとの関係性も固定される7。
そうするとそこに登場するキャラは、映画作品の文脈におけるキャラクターでしかありません。インスタンス化されてしまったわけです。
筆者にとって、キャラクターのインスタンス化という意味では、誰かが作ったファンフィクションも実写映画化もだいたい同じです。もちろんマーベルの公認を得てるかどうかが違うのは分かってますけども。
どんな風になってるのかなーと好奇心は覚えますが、積極的に観たいかというとそうでもないんですよね。
自分の中でキャラクターを作っていく
記号としてキャラを見るというのは、ある意味では自分勝手な見方です。
つまり好きなようにキャラをインスタンス化できるということ。キー要素以外の「余白」の部分に、自分の好きな要素を勝手に付けられるということです。
自分勝手であり、同時に創造的でもある。自分がクリエイターになるということですから。
筆者は原作厨なので正史コミックシリーズの設定を重視しますが、無意識のうちに自分の好きな設定をペタペタくっつけてキャラクターを見てるんでしょう。
色んなメディアや作品に触れて、そこからキャラの要素を抽出し、自分の世界観の中でキャラクターを形成していくのは楽しいことです。
そのキャラのどんなところが好きなのか分析してみると、無意識のうちにどんなインスタンス化をしているのか分かります。これに合致する作品にはハマりやすいでしょう。
ただし、自分の世界観を他人に押し付けないように気を付けましょうね。
自分の思ってるキャラに合致しなかったら「その人の並行世界ではそういうキャラクターなんだな」と許容する心が大事です。
逆に、他の人の設定を自分の世界に受け入れる必要もありません。
筆者の推しキャラメモ
じゃ、楽しいことをやっておきます。これが書きたかっただけでした。
ちなみに実写のみなさんにはそんなに興味ないです。
推しキャラ:ソー
- ゴージャスなボディ、目立つ金髪
- 強キャラゆえに噛ませ役に使われがち
- 強キャラゆえに逆に捕獲されがち
- みんなの人気者、宿敵も多い
- 神様らしい口調、読みにくい荘厳なフォント
推しキャラ:アイアンフィスト
- 秘境クンルンの守護者 兼 市井の雇われヒーロー 兼 社長
- 鋼鉄の拳の頼りになる一撃
- 拳法家とみせかけて魔法も噛んでる
- キレのある身のこなし
- 割とノリが軽い
推しキャラ:ケーブル
- 惜しみなく見せつけてくるガチムチボディ
- なにしろ強キャラ
- 偉そうなせいで読者から嫌われる
- 味方からも嫌われる
- 大量のウェストポーチと銃
- 昔のデッドプールを唯一温かく見守ってた(けど利用する)
推しキャラ:アメリカ・チャベス
- ホットパンツがあまりにホット
- すぐ怒る、すぐ殴る
- とにかく愛想が悪い
- 友達少なそうだけど情には厚い
- 友達少なそうだけど彼女は多そう
- ヤングアベンジャーズのハルク
推しキャラ:スパイディ
- 推しと言うまでもないみんなの推しキャラ
- 誰よりも軽口なのに誰よりもヒーロー
推しキャラ:ドラックス
- 硬そうなボディ、大味なタトゥー
- なぜかサルエルパンツ(CMパンクのシリーズ)
- いつでも仏頂面
- 強面で口も悪いのにちゃんと人助けしちゃう
- 頑固だけどすぐ言いくるめられる
- 意外とクレバーでもある
推しキャラ:マシンマンさん
- マシンのくせに表情豊か
- マシンのくせに割とおしゃべり、ひとりごとも激しい
- マシンのくせに偉そうでお茶目
- おめめが赤くて瞳がない
- スパンデックスの上にロングコート
- デッドプールのシリーズでしか見たことないのになぜか推したくなる
別に推してない:ロキ
- 爪が黒い
特に興味ない:アイアンマン
- ハンサムで億万長者で天才エンジニア
- みんなのスポンサー
- 最終的にあんたが何とかするんでしょ
- アル中
- 黒目の大きいキュートな絵柄が似合わない
- 口ヒゲがないと気持ち悪い
- ついネタとしてけなしたくなる
最後に
なんかさ、ツイッターの「推しマーベルヒーロー」のタグを眺めてたらMCUの画像ばっかり貼ってあるんだもん。それは「推しマーベル映画ヒーロー」って言うべきだよ。
それはそうと、特定の個人に属する作品のキャラなら作者の設定が「正解」になるわけですが、マルチバースのアメコミキャラクターにとっては「正解」はありません。
同じキャラクターでも色んなバリエーションがあると素直に楽しんでいきましょう。
今回の記事はここまで。
アイアンマンはネタにしたくなるだけです。ごめんなさい。
- フォートナイトのタグらしいです。コラボしてたんですね。
- Marvel Chinematic Univers:アベンジャーズなどの映画シリーズ。
- 主にマーベルの話だと思ってください。筆者はDCコミックには疎いです。
- 日本のキャラで言うと、ルパン三世が最も近い例じゃないかな。モンキーパンチ先生の原作があるものの、他の漫画家さんがシリーズを描いていたり、映画やテレビスペシャルやアニメになったり。作品ごとに設定が違うことが受け入れられてます。
- アニメの「マーベル ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のガモーラは好きですが、ガモーラ自体が好きかというとそうではない。
- そのキャラクターの知名度が上がるという意味で「映画化」そのものに興味がないわけではないですが、ぜひ観たいかというとそうでもないという。
- MCUもX-MENも、映画を一つの作品としてまとめるために、ヒーローとなった経緯や登場人物のなれそめから描きますよね。